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十周年

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JEAGAMの思い出

まだCDもMDもシリコン・オーディオプレイヤーもなく、もちろんネットすらない時代。巷の音楽愛好家が愛聴していたメディアは、“Vinyl”とも称されるアナログレコードとラジオ放送、そしてコンパクトカセットテープだった。

オランダの世界的家電メーカーであるフィリップスが開発したそれは、互換性を条件に無償で特許が公開されたことから、数多くのメーカーがこの規格に参入し、その録音/再生装置------俗に言う“ラジカセ”もまた市場に潤沢に供給されることになった。


日本でも、音響機器メーカー、家電機器メーカーを問わず多くの企業がこぞって自社の技術を惜しみなく投入した、個性的なモデルを発売していた。この当時、コンポーネントステレオセットに代表されるオーディオ機器は、家電の花形の一つだった。現在では重電と白物家電に注力している三菱電機も音響部門を持っていて、プロフェッショナル向けスピーカーとして著名な“ダイヤトーン”を生み出した技術力を背景に、実に魅力的な製品を世に送り出したのである。


それが、三菱JEAGAM。


このラジカセを私は所有していた。正確に言うと購入したのは私の父親であり、私は半ばそれを独占的に使用することを黙認されたというのが正しい。いずれにしても私はこのJEAGAMを武器に、様々な音楽と接し、そして多くの記録を残してきたのである。先日の「音楽を探して」の俎上に上った曲もまた、このJEAGAMとの生活の中での巡り合いだったのである。


今回は、そんなJEAGAMにまつわるお話。




ちなみに“JEAGAM”というのは“ジーンズ(JEANS)”に由来する造語。確か当時のカタログには、命名の際に込めた思いが記述されていた記憶があるのだが、残念ながら処分されてしまって手元にないので確認できない。現代では老若男女を問わず一般的に親しまれているファッションも、あの当時は若者たちを象徴するキーアイテムであり、若者文化の一端だった。JEAGAMには、そんな若者達の伴侶になることを願った、メーカーの熱い思いが込められていたのだ。


難しい話はこれ位にしよう。


JEAGAMには様々なモデルが存在するらしいのだが、私の自宅にあったモデルは------じつは型番がよくわからない(恥)。前述の通りカタログを紛失してしまっているし、現物もまたはるか昔に処分されているので、確認の仕様がないのだ。ネットの海を検索してみたのだけれど、近い機首はあるのだが、ドンピシャリだったものは見つからなかった。

JR-5600(「JEAGAM 5600」)が一番近いのだが、私のモデルはその前のモデルだったようで、ポーズボタンは存在せず、ボタンの形状やレイアウトも若干異なってる。それでも特徴的だったドッキング式ワイヤレスマイクや3バンド(AM、FM、SW)チューナー、入力レベルインジケータやラウドネス・スイッチ辺りは共通だった。

そのうち、最も子供心をくすぐったのがワイヤレスマイクで、本体に収納できるギミックは合体ロボットのようだったし(笑)、FM波を飛ばしてワイヤレスマイクとして使用できる以外にも、ミニプラグコードで繋げばワイヤードマイクとしても使え、内部に収納すれば内臓マイクにもなる優れものだった。ミキシング機能にも対応していて、多分誰もやらなかったとは思うが、カラオケのように別音源と一緒にマイクから拾った音声を被せて録音できた。(カラオケが世に出る前の時代である)。

もちろん市販のマイクロフォンを接続することも出来たし、外部入力端子(AUX)を使ってテレビや他の音響機器からのライン入力も可能だった。また今のラジカセではあまり見受けられない外部出力端子というものも備えられていて、JEAGAMから別の音響機器への音声出力にも対応していた。モノラル機器ではあったが、(当時はまだこれが一般的で、ステレオ化されるのはもう少し後になってから)、非常に高機能なラジカセだった。

ちなみに、“昔は、歌謡曲やアニソンなどをテレビ音声から録音する際は、(内臓マイクを使用するので)、静かにしないといけなかった”云々の話をよく耳にするが、首を傾げる話である。外部入力端子を知らなかったのかと。小学生だった私でも知っていたことだったし、モニタ出力といって、テレビ音声をそのままラジカセのスピーカーから出力する機能もあったはずである。(後年のラジカセは自動的に出力していた)。

問題は別の方で、ラジカセというのは、その制御はメカニカルな機構によって行われているので、(要するにレバー操作)、再生/録音ヘッドの操作にはある程度力が必要とされるケースがあったことだ。もちろん、操作自体はボタンで行うのだが、これが子供の力ではなかなか押せないことがある。ボタンを自動的に跳ね上げる機構が反発力となって、操作に抵抗してくるのだ。しかもあの当時の機種はほとんどが再生ボタンと録音ボタンの同時押しで、後年の機種のように録音ボタンを押せば連動して再生ボタンも押ささる仕組みにはなっていなかったから、昔録った音楽テープはたいてい曲の冒頭に“ギュワワ~ン”という感じのノイズが入っていた。これはポーズボタンを使って録音待機状態をあらかじめつくってやれば軽減されるのだけれど、私の機種にはポーズボタンがなかったんだよね~。


前述したようにJEAGAMは私が占有していたのだが、それが理由で妹達はJEAGAMよりも新しい、より優れたステレオラジカセを買ってもらっていた。私のJEAGAMは高機能だがモノラルだったから、実に羨ましく、仕方なく(?)、その後に我が家に配置されたカセットテープレコーダー付きアンプ内臓アナログレコードプレイヤーを占有させてらっていた。JEAGAMは段々とお役御免になっていったのである。

そしてとうとう寿命が尽きる日がやってきた。テープレコーダーを駆動するプーリーが劣化したらしく、テープを駆動することが出来なくなった。発売から10年以上経過していたから、天寿を全うしたと言えなくもない。ただチューナ部分は健在だったので、感度のいいラジオとして余生を送ることも出来たのだが、私が実家を出てから程なくして処分されてしまったようだ。


長々とJEAGAMの思い出を連ねてきたが、実はここからが本題(笑)。


このJEAGAMには試供品として、カセットテープが付属していた。当時はまだラジカセが新しいコンセプトの商品で、カセットテープの認知度もそれほど高くなかった為らしい。そう言えば、幼きころのカーステレオはビデオカセットくらいの大きさがあった8トラックカセットがまだ主流だったし-------なんて書くと、歳がばれるね(爆)。

そしてその試供品テープ、B面は無録音で、ユーザーが自由に録音できる状態になっていたが、A面は聴取サンプルとして4つの楽曲が収録されていた。


1曲目が「Hello! JEAGAM」。

おそらくオリジナルの曲で、JEAGAMの魅力を謳ったものであると推測されるのだが、何分英語交じりの歌詞を一部しか覚えていないので、詳細はわからない。ややゆったりとしたミディアムテンポの陽気な曲で、1コーラス自体は短いのだが、これに続いてインストバージョンも一緒に演奏/録音されているので、だいたい3分ちょっとの長さだろうか。残念ながらテープが破損してしまっているので、現在は聴き直す事が出来ないのだが、(繋ぎなおせば聴けるかもしれないが、溶着されている本体を割る必要があって、ちょっと難しい)、メロディだけはバッチリ覚えている(笑)。

一説には当時冠番組だった同名のラジオ放送の主題歌だとか、CMソングだとか言われているようだが、現時点では確認が取れない。



2曲目が「真夜中のカウボーイ」。

これは、ハリー・ニルソン(Harry Nilsson)が歌った、映画「真夜中のカーボーイ(Midnight Cowboy)」の主題歌「うわさの男(Everybody's Talkin')」のインストゥルメンタル・カバー・バージョン。





私は始めにインストバージョンを聴いていたこともあってか、後に映画を鑑賞し、ニルソンの泥臭い歌い方に驚いたものだが、映画の内容からいえば、やはりニルソンの歌い方のほうがピッタリだと思う。

ところが、このニルソンの歌唱も実はカバーだったということを、今回の執筆の際に調べて初めて知った。また当初主題歌はボブ・ディラン(Bob Dylan)によるオリジナル・ソングになる予定だったのが、間に合わず、だったとか。

「真夜中のカーボーイ」は、いまや女優アンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie)の父親としての方が知られているかもしれない(笑)ジョン・ボイト(Jon Voight)と、誰もが認める名優ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)の二人が主演した、アメリカン・ニューシネマの傑作。いかにも田舎者風情のボイトとホームレス然としたホフマンの演技が目に焼きつく。

ちなみにこの邦題は、日本の配給元だったユナイト映画で当時宣伝部長だった映画解説者の水野晴郎が、都会的な雰囲気を出したいがために“カウボーイ”を“カーボーイ”にしたというのは有名な話。自動車が若者にとって憧れのアイテムだった時代だね。

また、監督のジョン・シュレシンジャー(John Schlesinger)は英国出身。アメリカ映画を代表作の一つを英国人が手掛けるというは、意外に思えるようで、実は結構先例が多い。(チャップリンやヒッチコック、etc…。近年ではリドリー・スコットなども英国人)。英国人にとって米国というのは、似て非なる国として興味の対象となるのかもしれないね。



そして3曲目が「動物と子供達の詩」


https://www.youtube.com/watch?v=VCZXUDLk9uE


穏やかなテンポと優しげなメロディーが印象的な曲で、同名の映画(Bless the Beast&Children)の主題歌。が、これ、カーペンターズ(Carpenters)が歌っていたとは恥ずかしながら知らなかった(大恥)。

まあ、試供品テープに収録されていたのはインスト・カバー・バージョンだったからある意味仕方がないのだが、この曲が映画の主題歌であることを知りながら、この記事を執筆している現在でもまだ映画も未見なんだよね(大恥)。

ただ、すでに廃業して久しいわが街の映画館の、上映までの待ち時間にずっと流れていた曲という、個人的な思い出がある曲でもあったりする。



そして最後となる4曲目に収録されたのが「ミセス・ロビンソン」。





いわずと知れた、サイモン&ガーファンクル(Simon&Garfunkel)の大ヒット曲(Mrs. Robinson)。映画「卒業(The Graduate)」のために提供された曲なのだが、実際には冒頭のスキャットの部分しか使われず、フルバージョンはそのすぐ後に発売されたアルバム「ブックエンド(Bookends)」にて披露。以降二人のコンサートでは必ず最初に歌う曲にもなった。

前述の通り、映画では冒頭部分しか使われていないのだが、それは、ダスティン・ホフマン演じるベンジャミンが、キャサリン・ロス(Katharine Ross)演じるエレンのいる教会に向かって、アルファロメオを疾走させるシーン。





当時すでにアメリカは世界が羨む自動車大国でもあったのだが、主人公のベンがお金持ちのボンボンであることのキーアイテムとして、イタリアの高級スポーツカーが選ばれている辺りが興味深い。


話を戻すと、試供品カセットテープに収録されていたのは、他の二曲と同様、インスト・カバーだったのだが、躍動感溢れるこの曲は中でも私のお気に入り。しかし、試供品テープには曲のタイトルは書かれていたものの、演奏者や作曲者の情報は一切なし。どこの誰が作った曲なのかしばらく不明な状態が続いていた。

ところがテレビの特番で、サイモン&ガーファンクルの再結成コンサート(1980年のセントラルパーク・コンサート)の模様を放送するという機会が訪れる。洋楽はFM放送で多少かじった程度だった当時の私は、彼らのことはまだ知らなかっただが、この二人が、試供品テープに収録されていた「ミセス・ロビンソン」のオリジナルを歌っていたデュオだと放映直前に知り、その特番を齧りついて見ることに。そして番組を試聴するにつれ、誰もがどこかで聴いたことがある名曲--------「スカボロー・フェア/詠唱(Scarborough Fair/Canticle)」、「明日に架ける橋(Bridge Over Troubled Water)」、「ボクサー(The Boxer)」、「59番街橋の歌(The 59th Street Bridge Song)」、「サウンド・オブ・サイレンス(The Sound of Silence)」、etc…を世に生み出した大物であることを知り、一挙に大ファンになってしまうのだった。そして彼らを皮切りに本格的に洋学の世界に飛び込んでいくことに……。


言わば、JEAGAMは、私の音楽的見地の産みの親であり、大きく広げた偉大なる存在だったのだ。


この数ヶ月、JEAGAMで出会った音楽を探しにネットの海をうろついていたそれは、私の心に深く刻まれた、JEAGAMと過ごした思い出を呼び覚ます旅でもあったのかもしれない


そう思うと、あの無骨なデザインと硬質な手触りが無性に懐かしくなってくる。たくさんの夢と楽しみを音に絡めて提供してくれた“ラジカセ”、JEAGAM。

現代において、これほどまでに夢を見、遠くの世界に思いを馳せさせてくれるような家電商品があるだろうか------?


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